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会計基準からみた「人」
2017.06.10

 

今年の大手企業の就職活動の解禁日は6月1日。今年も本格的な就職活動が始まりました。今年はバブル期を超える空前の「売手市場」ということです。報道では「ホワイト企業」であることをアピールするため、「有給取得率」「残業時間の考え方」といったことを学生に説明する企業も多いとのこと。時代時代で、就職活動も変わっていくものなのだなと改めて感じます。

企業がそこまで学生寄り添っていくのはなぜか。それはもちろん優秀な人材を集めたいからです。優秀な人材は企業が成長していくために大変重要です。

今回は、人に関する会計基準を考えていきたいと思います。

■ 1.人は資産

「わが社にとって人は資産です。」「人が一番の財産です。」いろいろな場で耳にする言葉です。

確かにそうです。組織が組織となるための必須条件は、複数の人がいることです。人がいなければ会社も組織も成り立ちません。人がいて初めて物事が動き始めます。

では、会社の実態を示す役割の決算書(財務諸表)では人はどのように表現されているのでしょうか。

 

■ 2.資産とは何か

会社の資産は、決算書では「貸借対照表」の「資産の部」に計上されています。例えば、会社が持つ現金や預金、株式、設備などの固定資産、ソフトウエア等の無形資産、それから今後回収入金予定の売上代金である売掛金などが資産の部に計上されます。会計の世界では、資産とは経営資源であり、これからの企業の活動の使用することで、将来収益・資金を生むものと考えます。法的な所有権があるかどうかといった観点はあまり重視されません。

例えば、ある企業が製造機械をリース契約で「借りた」とします。リース契約なので所有権はその会社が持っていません。分割でリース代金を支払いながらリース期間にわたりその製造設備を「使用する権利」を持っていることになります。

この場合、企業が資金を借りて設備を購入していることと同じ実態となると考え、資産にリースをしている製造機械を「資産」として計上することになります。法的に所有していなくても資産になるわけです。

ては、経営者が「一番大切な資産」といっている「人的資本」は決算書上「資産」に計上されているのでしょうか。

■ 3.人はコスト

会計上は、「人的資本」は資産に計上されません。新入社員が100名入社しても100人分の資産が増えるわけではありません。人はあくまでも会計上はコストとなります。従業員に支払う給与は人件費です。将来の投資となるはずの教育訓練の費用も「投資」といっていますが、株式への投資や設備投資と異なり、資産となることはなく、「教育訓練費」といったコストになります。優秀な人材には高い給料を支払いますから、コストが高くなることになります。

『週刊経営財務』(№3298 2月20日)に掲載の「人的資本のオンバランス化」という論文によると、実は人的資本をオンバランス(貸借対照表にのせる)ことについて、財務諸表の利用者により有益な情報を提供するものとして1970年代から議論が行われてきたそうです。ただ、日本基準だけでなく、IFRSや米国基準でも人的資本はオンバランスされることはありません。

結局のところ、どの支出をどのタイミングで資産を計上するかについて、誰もが納得する基準を作るのは難しいということのようです。決算書に資産として計上するためには、ある程度客観的に「いくらで計上するか」、つまり測定ができないといけません。恣意的な金額を勝手に決算書にのせるわけにはいきません。

 

上記の論文でも人的資本のオンバランス化については「財務諸表利用者の意思決定に有用性があるという分析が行われていますが、現状、基準設定主体において取り上げる見込みはないと考えられる。」と結論付けられています。

「人は資産」ですが、会計上資産計上されることはしばらく無さそうです。

■ 4.頭の体操として考えてみる「人の資産化」

会計基準上は人が資産計上することはなさそうですが、頭の体操として「もし資産計上するのであれば」と考えみたらどうなるでしょうか。例えば新入社員は一律〇〇円。その金額は例えば平均勤続年数に支払う給料を現在価値に引き直した金額とします。そして、教育にかけた教育訓練費も資産の価値を増加する投資です。教育をすればするほど、資産価値があがっていきます。OJTを行った時間の上司の人件費相当額も投資となり部下の資産価値を上げていきます。

上司は、部下の資産価値を上げるほど評価されることになります。基本的にはどんどん成長してしていきますので人の帳簿価額はどんどん上がっていきます。ところが、「活躍が期待できない」となると資産ですので減損の検討の対象となります。そして「ある価値」まで減損をしなければいけません。「活躍が期待できない」のは、収益を上げられないだけでなく、部下の資産価値を上げることができないこと、ルール違反等が多い等コンプライアンス視点も当然入れて考えます。コンプライアンス経営進めて行くのであれば当然の評価基準です。

その結果、貸借対照表を見れば、ブラック企業で人がすぐやめてしまったり、従業員の教育に投資していない企業は、「人」の資産価値が小さいため「人が大切にされていないんだな」とすぐにわかってしまうことにならないでしょうか。

「人は資産」を決算書にも反映されると、ひょっとしたら就職活動中の学生も、企業側も少し行動が変わったりするかもしれないですね。