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コラム
本社と現場の距離
2016.10.17

「事件は現場で起こっている」

ちょっと古いですが「踊る大捜査線」のセリフがありますが、本社と現場の距離は今も昔も業界を超えて変わらぬ課題のように思います。

先日、東芝が挑む風土改革の様子がテレビで報道されていました。風土改革の取組の一環として、工場で勤務する若手社員と社長がざっくばらんな雰囲気で積極的に情報交換している様子でした。以前は、社長や役員が現場に来るとなると「大名行列」のような形でそぞろ歩いていたそうですが、その慣習をやめて社長が1名で現場に赴き、現場の若手社員と直接情報交換するようにしたそうです。そこでの30代若手社員の方の発言が辛辣。「本社の人はそもそも現場を知らないものだと思い、指示は聞き流していました。」社長は苦笑されていましたが、これまで拾われることがなかった現場の本音なのでしょう。

 

最近はガバナンスやモニタリングという言葉をよく使うようになりましたが、「本社が全体を管理し、現場や子会社は本社の指示に従うことがガバナンス」といった誤解があるように思います。現場からみても、たとえ本社の指示通りに動いて失敗したとしても自分のせいにはならないため、リスクを取らなくて済むという点においては好都合ともいえます。こういう思考回路になると、現場は目の前にある事実を正しく捉えて自ら自律的に考えて判断、行動することをやめてしまいます。この結果、企業の収益力や生産性が低くなっていることもあるのではないでしょうか。

 

私は、仕事上本社側の立場にたって仕事をすることが多いのですが、よく感じることは本社からの指示の“趣旨”が正しく伝わっていないということです。本社も当然ながら会社を弱体化するために様々な指示や取組を行っているのではなく、指示や取組には、趣旨や目的があるわけです。ただ、それが伝わる過程でその趣旨が忘れられてしまい、また議論されることもなく、単に「チェックリストつぶし」が始まってしまうということです。これでは現場は本社を見て仕事をしてしまうことになってしまいます。

 

ベストセラーとなっている「キリンビール 高知支店の奇跡」の中で、著者が本社から業績不振の支店長へ異動となり奮闘する姿が描かれています。(この異動、社内も本人も左遷と捉えられていたそうです。)著者も高知支店に赴任してしばらくは、現場の状況の詳細を知らない本社から相次いで下りてくる指示を最初は本社の事情に明るい著者でさえも「そんな指示は流しておけ」と言わざるを得なかったそうです。ただ、本社とよくコミュニケーションをとるようになると「同じ会社なのになぜこれだけ意見と結論が違ってしまうのだろう」と不思議に思うようになり、考えた結果「持っている情報量が決定的に違う」「この情報量のギャップを埋めるのは現場マターだ」と気づいたそうです。そして到った考えが、「会社の方針とその意味をよく理解したうえで顧客からの支持を最大するために、どの施策に絞り組むかを決め、効率的なやり方を議論し、現場ならではの工夫をし、実行する。その結果をチェックし次に生かす」ということ。そのように考えると、本社からの指示についても面従腹背ではなく、納得がいくまでコミュニケーションをとるようになっていったそうです。

 

また、「捨てられる銀行」という書籍では、人口減少にあえぐ地銀の中で堅実な業績をあげている地銀は、徹底的に顧客の希望によりそい、時には金融庁(おかみ)と闘いながらも確実に収益をあげているということでした。具体的には、営業ノルマを廃止し、顧客満足を評価基準に据え、そして会計上引当を積んだ先にも積極的に運転資金の追加貸し出しを行ったということでした。

 

いずれの例も売上や利益が究極の目標ではなく、リーダーも現場の一人一人も「自分の会社が社会に存在している意義は何か」を真剣に考え、「顧客のため」「地域のため」「従業員のため」にその存在意義に沿った判断し、その結果として売上や利益がついてくるということが書かれています。そしてまた利益は悪ではありません。事業の結果として得られた利益でさらに人、設備、広告、開発に対する投資余力が生まれさらに強い事業に持続的に育てることができるといったことになります。経営学の書籍の名著「ビジョナリーカンパニー」ではORの呪縛(理念OR利益)ではなくand発想(理念&利益)を信じている会社が強い会社だといっています。

 

では、本社の役割は何なのでしょうか。私は本社の役割は現場の一人一人が自律的に会社の存在意義に沿った事業の判断ができるよう、そして事業に専念できるよう支援することにあると思います。具体的には、会社の理念の理解を深める機会を設け、事業の強さを適切に判断できるような評価基準を設計し、正しい行動が評価されるような人事制度を整備し、事業が滞りなく行い、様々な事業上の判断を正しく行えるような業務プロセスや情報システムを構築し、そのどこに改善すべき点があるのかを評価するモニタリングを行うといったことになります。本社部門は自身の業務がどうすればより事業に貢献することができるかを常に頭においておくことが必要です。これには絶対の正答があるわけではありませんので試行錯誤をしていくことしかありません。この試行錯誤がない限り本社と現場の距離は離れたままで長い目で見れば会社の事業も弱くなってしまうでしょう。